人魚姫(Die kleine Meerjungfrau、The Little Mermaid)  第3回目の公演  2007年7月13日(金)

       ジョン・ノイマイヤーによるバレエ
       ー ハンス・クリスティアン・アンデルセンから自由に発想して

音楽 レーラ・アウエルバッハ 振付・演出・舞台美術
衣裳・照明設計
ジョン・ノイマイヤー
指揮 クラウスペーター・ザイベル オーケストラ
ソロ・ヴァイオリン
テレミン
フィルハーモニカー・ハンブルク
Adrian Illiescu
カロリーナ・エイク


詩人  ロイド・リギンズ
人魚姫/詩人によって創造されたもの  シルヴィア・アッツォーニ
エドヴァルド/王子  カーステン・ユング
ヘンリエッテ/王女  エレーヌ・ブシェー
海の魔法使い  オットー・ブベニチェク


第1部
第1場 プロローグ:船の上で
詩人、ヘンリエッテ、エドヴァルド
結婚式の客  カロリーナ・マンクーソ、大石裕香、リサ・トッド、アンナ・レナ・ヴィーク、アリイ・マヨ
ジョゼフ・エイトケン、アントン・アレクサンドロフ、ヨハン・ステグリ、コンスタンティン・ツェリコフ、ベン・シトリット

第2場 海の底
詩人、人魚姫、ヘンリエッテ、エドヴァルド
魔法の影 
(人魚姫の持ち上げ役)
ピーター・ディングル、ステファノ・パルミジャーノ、セバスティアン・ティル
人魚姫の姉たち  アーニャ・ベーレント、マリッサ・ヒメネス、アンナ・ラウデーレ、ステファニー・ミンラー、ディナ・ツァリポヴァ
  ステラ・カナトゥーリ、イリーナ・クロウグリコヴァ、ユン・スー・パーク、アンナ・Rabsztyn、パトリシア・ティッツィー、ミリアナ・Vracaric、マリアナ・ザナットー
シルヴァーノ・バロン、オーカン・ダン、ウラディミル・ハイリアン、マティアス・イアコニアンニ、パーシヴァル・パークス、エドウィン・レヴァツォフ、ジョエル・スモール

第3場 船の甲板で
詩人、王子
上級船員  ジョゼフ・エイトキン、アントン・アレクサンドロフ、ベン・シトリット、ヨハン・ステグリ、コンスタンティン・ツェリコフ
船員  アントナン・コメスタッツ、エミル・ファスフットディノフ、ヤロスラフ・イヴァネンコ、草野洋介、キラン・ウェスト

第4場 海中で
詩人、人魚姫、王子、海

第5場 嵐
詩人、人魚姫、王子、海の魔法使い、上級船員、船員、魔法の影、海

第6場 嵐の後の静けさ
詩人、人魚姫、王子、海

第7場 海岸にて - 教会のそば
王子、王女、詩人、人魚姫
王女のクラスメート  カロリーナ・マンクーソ、大石裕香、リサ・トッド、アンナ・レナ・ヴィーク、アリイ・マヨ
修道女  スカイ・ハリソン、パトリシア・ティッツィ

第8場 海底
詩人、人魚姫

第9場 変身
詩人、人魚姫、海の魔法使い、魔法の影

第10場 海岸にて
詩人、人魚姫、王子

第11場 船の甲板で
詩人、人魚姫、王子、王女、上級船員、魔法の影
船の乗客  カロリーナ・アゲーロ、クシャ・アレクシ、ジョージーナ・ブロードハースト、スカイ・ハリソン、ステラ・カナトゥーリ、パトリシア・ティッツィ、マリアナ・ザナットー
シルヴァーノ・バロン、エミル・ファスフットディノフ、ウラディミル・ハイリアン、ヤロスラフ・イヴァネンコ、草野洋介、エドウィン・レヴァツォフ、キラン・ウェスト
ステュワード  ジョエル・スモール、Grischa Olizeg、ダニエル・ヴェーダー、フロリアン・ポール

第2幕
第12場 人魚姫の船室
人魚姫

第13場 王女の宮殿
詩人、人魚姫、王子、王女、海の魔法使い、魔法の影、上級船員、人魚姫の姉たち、海
結婚式の客  カロリーナ・アゲーロ、クシャ・アレクシ、ジョージーナ・ブロードハースト、スカイ・ハリソン、ステラ・カナトゥーリ、パトリシア・ティッツィ、マリアナ・ザナットー
シルヴァーノ・バロン、オーカン・ダン、エミル・ファスフットディノフ、ウラディミル・ハイリアン、ヤロスラフ・イヴァネンコ、草野洋介、エドウィン・レヴァツフ
花嫁の付き添い  カロリーナ・マンクーソ、大石裕香、リサ・トッド、アンナ・レナ・ヴィーク、アリイ・マヨ

第14場 エピローグ:もうひとつの世界
詩人、彼によって創造されたもの(人魚姫)


この作品はデンマーク王立バレエの委託作品として創られましたが、ハンブルクで再演する際に振付の変更があったと聞きました。
あらすじ:人魚姫の作者のアンデルセン(詩人)の友人エドヴァルドへの思いが、人魚姫の話を創作し、人魚姫の王子への思いとアンデルセンのエドヴァルドへの思いを重ね合わせて、いわゆる人魚姫の話が進んでいきます。詳しくはこちら
この作品で特筆すべきは人魚姫を演じたシルヴィア・アッツォーニの表現力でした。観る前に友人たちから、シルヴィアが凄い、表現力がますます進化(深化)しているとは聞いていたのだけれど、本当にそうだったのです。
海の中で青く長い袴のようなものを魔法の影たちがまるで海の中で泳いでいるようにヒラヒラさせるときの重力を感じさせない表現、脚を得てからは最初はなよなよしてまるで自分の脚ではないような感覚の表現、そして王子を愛する幼く純粋な人魚としての感情表現、そして愛に気づいてもらえないことに対する哀しみ、人間の世界に馴染めない人魚としての違和感の表現、そしてすべてが終わって新たな世界に旅立つ凛とした姿勢、すべてが真実であるかのように感じさせるのです。彼女は演じているのではなくて、その時人魚姫そのものだった、としかいいようがありません。人間の反応、表現とは違ったものがそこにありました。
あらためてキャスティング表を眺めてみると、殆んどの場面に詩人が登場していました。これは実際にステージで踊るのではなく隅のほうで物陰から人魚姫を見守る、ということも含まれているからですが、私自身の記憶としてはこんなに多かったのかなあ、という印象です。あらすじを予め読んでいなければ、詩人の解釈に少し迷ったかもしれません。ロイド・リギンズの詩人は切ないのですが、人魚姫を物陰から見守っているシーンが多いので、人魚姫との思いが重なり合う、というところが少し弱いように思いました。それにしても殆んどにシーンに出ているので集中力を維持するのは大変だったと思います。
エドヴァルド/王子、ヘンリエッテ/王女は地上のふつうの人間です。地上の明るい世界を表現していてあまり深く考えることはしない、という役柄です。明るく伸びやかに何の疑いもなく自分たちの恋を成就させます。悩み苦しんでいる人間が回りの世界を眺めた時、明るく眩しく感じればこういう風に思えるのでしょう。心に響く役ではないですが、カーステン・ユング、エレーヌ・ブシェーはその役を印象的に演じました。二人とも踊りの端々に喜びが溢れているんですよね。
そして海の魔法使い、魔法の影たちです。海の世界は対峙する地上の世界を西欧風にしたために、日本的な衣裳(人魚姫もそうでしたが)、海の魔法使いの派手な隈取と、スタイルを変えています。魔法の影たちはまさに黒子です。それにしても何と豪華な黒子達でしょう、ピーター・ディングル、ステファーノ・パルミジャーノ、セバスティアン・ティル、なんですよ。黒子ですから衣裳はシンプルです。
オットーは海の魔法使いを憎々しげに力強く表現していました。私に違和感があったのは海の魔法使いのメイクです。歌舞伎における隈取は人物の性格を表現するもので隈取をすることによって性格が増幅されるものなのですが、オットーのメイクはそこまで至っていなかったと思います。むしろ邪魔だったように思います。ノイマイヤーの作品は基本的にはシンプルなものが多い(またそれが私の好みでもあったりします)ので、たまにこのような趣味に出会うと、ノイマイヤー、どうした、といいたくなります。
海、乗客などの群舞のシーンになるとどうもゴチャゴチャしていて、あまり美しくはなかったのですが、これは踊りこんでいくとスッキリしたものになるでしょう。それにしても船の乗客や結婚式の客の中にカロリーナ・アゲーロ、クシャ・アレクシの名前を見つけたときはびっくり。こちらも豪華でした。
詩人や人魚姫にとって自分のいるべき場所を見つけることができなかった地上/海の世界、ともうひとつの自分たちの世界という対比で見ると、やはり地上/海の世界の描き方の単調さに不満が残ります。
照明はとてもきれいで、特に海のシーン、そしてエピローグのもうひとつの世界などの青色の光の使い方はその世界に引きこまれました。
音楽は委託作品でレーラ・アウエルバッハによるものですが、嵐の場面などはただ騒々しく聞こえました。エピローグは美しいと思いましたが、他のシーンはあまり記憶にありません。それにしてもテレミンはどこで使われていたんだろう? お気づきの方がいらっしゃったらお教え下さい。
せめてもう一度観ることができるなら詩人、海の魔法使い、音楽にもっと注意することができたのに、と思います。来年はバレット・ターゲ前半に入っているので観ることができそうもないなあ。来シーズンはもっと踊りこんでくるだろうから楽しみなんだけど。
(S)